2016年9月24日土曜日

【名作】ドラえもん「ねぇのび太くん。ドラ焼き屋を襲おうじゃないか」【ss】

1:2009/03/21(土) 08:55:02.84 ID:
いつものように夕食を食べ、今から寝ようというときにドラえもんはそういった。
僕は耳を疑い、思わずドラえもんを見返した。彼はなんと言ったのだ。

ドラえもん「二度も言わせないでほしいな」

ドラえもんは言った。

ドラえもん「ドラ焼き屋を襲うんだ」

のび太「ちょ、ちょっと待ってくれよ」

僕はどぎまぎして言った。

のび太「ドラ焼き屋を襲うだなんて、そんな、急に何を言い出すんだい?」

ドラえもん「ドラ焼きが食べたいからさ。それ以外になんの理由があるんだい?」

のび太「……ねぇ、僕らは少し話し合う必要があるんじゃないかな?」

僕は言った。




3:2009/03/21(土) 08:59:17.54 ID:
僕は敷いた布団の上に正座をし、ドラえもんは押入れの中から出てきてたたみに座った。

のび太「ドラ焼き屋を襲う。そしてその理由がドラ焼きが食べたいから。どういうことだい?
君は、どうかしたのかい?」

ドラえもん「なんの問題もないさ。ドラ焼き屋を襲うのに理由が必要なのかい?」

のび太「……必要さ」

ドラえもん「ひとつの仮定として」

ドラえもんは言った。

ドラえもん「とてもおなかが空いていて、寝られそうにない。そして、どういうわけかドラ焼きが食べたい。
しかし僕にお金はない。だから、奪うしかない」

のび太「ちょっと待ってよ、普通の人ならそこでドラ焼きを食べるのを諦めるぜ」

ドラえもん「僕は人じゃない」

彼は言った。

ドラえもん「ロボットだ」

5:2009/03/21(土) 09:04:15.05 ID:
のび太「そういう問題かな?」

ドラえもん「そういう問題さ」

ドラえもんは続ける。

ドラえもん「それとも、君に僕のこの空腹をどうにかできるのかい?ドラ焼きをもってして」

のび太「無理だ。僕にそんなお金はないし、こんな時間に外に出かけたらママに怒られる」

ドラえもん「また君は目先の障害ばかり考えてるみたいだな」

のび太「どういうことだい?」

ドラえもん「ドラ焼き屋を襲うか、襲わないか。そんなときになってもママの顔色を伺っているなんて」

ドラえもんは言った。

ドラえもん「君はどうかしてるよ」

のび太「……君には言われたくないな」

ドラえもん「夜中に家を抜け出すことくらい、ドラ焼き屋を襲うことに比べたら込み値みたいなもんさ」

のび太「大きな罪で、小さな罪を隠す、ね」



11:2009/03/21(土) 09:10:08.43 ID:
ドラえもん「とにかく、だ」

ドラえもんは言った。

ドラえもん「ドラ焼き屋を襲う。これはしなければならないことだ。通過されるべき、果たされるべきことなんだ」

のび太「そんなのは義務じゃない」

ドラえもん「ねぇ、のび太君。これは一種の呪いなんだ」

のび太「呪い?」

ドラえもん「僕の今感じている底なしの空腹は、今まで一度も感じたことのないものだ」

のび太「そうなのかい」

ドラえもん「そして、これはドラ焼き屋を襲うことで初めて埋められる空腹だと僕は本能的に感じている。
ロボットに本能があれば、の話だけど」

のび太「……それで?」

ドラえもん「君は僕とともにドラ焼き屋を襲う。じきに君も感じてくるはずだよ」

のび太「何をだい?」

ドラえもん「底なしの空腹を」

ドラえもんは言った。


23:2009/03/21(土) 09:16:03.40 ID:
そしてその言葉通りだった。
しばらくすると、僕にも強烈な空腹が襲ってきた。
マシンガンですべてを破壊するような、そんな食欲が同時にわいて来た。

のび太「……」

ドラえもん「だから言っただろう?これは呪いだって」

のび太「……どうやらそうらしい」

ドラえもん「さぁ、のび太くん。ドラ焼き屋を襲いに行こう」

ドラえもんは言った。至極明るい声だった。


準備はすぐに整った。
僕は寝巻きから普段着に着替え、夜だったのでその上にコートを羽織った。
帽子をかぶり、顔を隠した。なんといっても僕は襲撃に行くのだ。

ドラえもんは空気砲を2挺用意した。

ドラえもん「出力をマックスまであげておいたよ」

彼は言った。

ドラえもん「アフリカゾウも一撃でしとめられる」

36:2009/03/21(土) 09:22:01.13 ID:
ドラえもんはタケコプターを使わなかった。

のび太「どうして使わないんだい?」

ドラえもん「空から奇襲をかける強盗がどこにいる。僕らは習志野の部隊じゃないんだ」

のび太「それもそうだ」

そういうわけで僕らは歩いて家を出た。
ママもパパももう眠ってしまったらしい。気づかれることはなかった。


夜道は、当然ながら暗い。

のび太「でもさ」

ドラえもん「なんだい?」

のび太「こんな時間までやってるドラ焼き屋なんてあるのかな?」

ドラえもん「ふぅん……どうだろうか。国道沿いならあるんじゃないかな?」

のび太「どうだろう。なかったらどうしようか」

ドラえもん「失敗する話なんて、するもんじゃないぜ、のび太くん」


50:2009/03/21(土) 09:28:08.31 ID:
僕らは国道にでてドラ焼き屋を探したが、一向に見つからなかった。

ドラえもん「見つからない」

のび太「そりゃあそうさ。今何時だと思ってるんだ」

ドラえもん「……仕方がない」

のび太「諦めるかい?」

僕は内心ほっとして言った。
しかしドラえもんは言った。

ドラえもん「マクドナルドにしよう。あそこなら24時間やってる」

のび太「……やれやれ」

58:2009/03/21(土) 09:33:36.08 ID:
僕らは国道沿いの24時間営業のマクドナルドを見つけて襲うことにした。
暗い夜の世界に、赤い看板が光る。空気が読めていない。まるで電話のようだ。

ドラえもん「何か言ったかい?」

のび太「いや。なんにも」

僕らは店の前で段取りを話し合った。
突入は僕。ドラえもんでは背が低すぎてプレッシャーにならない。
ドラえもんは後方で支援をする。

ドラえもん「厄介なのは客さ。店員はなんとでもなる。客に通報されるのが一番困るんだ」

のび太「客のほうは任せるよ」

ドラえもん「失敗は、できないな」


僕らは時計を合わせ、合図をだして突入した。



62:2009/03/21(土) 09:38:18.11 ID:
店内は関さんとしていた。
客も3人ほどしかいなくそのどれもがまどろんでいた。
僕らの突入に驚いたどころか、眠りを妨げられて不機嫌になっているようにも見えた。

しかしそれ以上に予想外の人物がいた。


しずか「あら、あなたは……」

店員の一人。レジの制服の女の子。

のび太「(しずかちゃんだ)」

ドラえもん「(これは予想外だぜ)」

しずか「の……」

彼女が口を開く前に、ウインクで合図する。

――これには、理由があるんだ。君が深夜にバイトしているのと同じように。

しずか「……」

彼女は黙ってうなずいた。


66:2009/03/21(土) 09:42:19.11 ID:
のび太「お金は要らない」

僕は空気砲を突きつけて言った。

のび太「ビックマックがほしい。そうだな、300こくらい」

店長のような男が出てきて、僕をにらんで叫んだ。

店長「何を、そんなおもちゃで……!」

彼が言い終わるよりも早く、ドラえもんが店の壁を空気砲で打ち抜いた。

店長「……!」

のび太「最近のおもちゃは性能がよくてね」

僕は言った。

店長「……お金ならあげます。だから、別の店で買ってください。勝手に作ると会計が合わなくなるんです」

今度は僕が空気砲を撃った。

のび太「作ってくれるよね?」

僕は至極笑顔で言った。

70:2009/03/21(土) 09:46:07.58 ID:
店長はしぶしぶパティを焼き始めた。ストックでは足りなかったらしい。
僕はそれを尻目に見ながら、レジに居たしずかちゃんを手で呼んだ。

のび太「ちょっと縛られてほしい。便宜上」

しずか「仕方がないわね。説明、してくれる?」

のび太「君がバイトしている理由は教えてくれないでしょう?」

しずか「メタファーを使うのならいいけど」

のび太「メタファーね」

僕は言った。

のび太「メタファーを使えば、僕らの距離もずっと近くなるな」

彼女は微かに笑った。

76:2009/03/21(土) 09:54:05.99 ID:
店長は三十分ほど時間をかけて300個のビックマックを作った。
ドラえもんはそれを受け取り、四次元ポケットの中に入れた。店長は目を丸くしたが僕らは気にしなかった。

のび太「あとコーラを二つ。お金は払うよ。僕らがほしいのはビックマックだけだ」

店長「……200円です」

のび太「ありがとう。いい仕事したよ、あなた」

僕はしずかちゃんにウインクをしながら、店を出た。
物理的に僕らの距離は遠くなったが、ある意味ではずっと近づいていた。

僕らはまた徒歩で家に帰り、大量のビックマックを前に目を光らせながらそれを食べた。

僕は5個。ドラえもんは6個食べた。

満腹になると、空腹と引き換えに強烈な睡魔が襲ってきた。
満腹と睡魔は抱き合わせなのだ。

のび太「僕は寝ることにするよ」

ドラえもん「それがいいね。明日も学校があるんだろう?」

のび太「小学生はつらいよ」

でも、明日学校でしずかちゃんと会話をするのは楽しみだった。
そんなことを考えながら、僕は寝た。


おわり。

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